3225人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにしてもこの究極バケツリレーな」
俺達が空けた大穴から、ひたすら水を入れたバケツをリレーで運ぶだけの簡単なお仕事。如何せん人が多いおかげでバケツを戻す役さえも作れる。素晴らしい。
『おーい、体育科から倉庫の鍵借りてきたぞ』
「先輩!ありがとうございます!」
流石に体育系の倉庫の鍵を、ゲリラ一般生徒が借りるのは難しい。いくら生徒会副会長といえども無理があるので、三年生の陸上部部長、曽我部(そかべ)先輩に借りてきていただいた。感謝感謝です。
『これで準備が本格的に出来るな』
「…まあ、保険程度に」
『こるぁ!』
バキィ!
「すざんぬっ」
苦笑しながらそう話した瞬間、先輩から左フックが飛んで来た。ズザザーッと濡れたアスファルトを滑り、涙目で顔を上げると、とにかく燃えている先輩がこちらを見下ろしていた。
『どうしてそこで諦めたような事言うんだよ!お前、本当は自分の中で開催できないとかもう決めつけてるんじゃないのか!?』
「…うわぁ」
体育会系のノリの人だとは思ってたけど、まさかのアノ人方面だったかーミスったなー。
『周りの事考えろよ!熱くなれよ!諦めんなよ!俺だってなぁ!この17℃の中!体育祭がトゥルルって頑張ってんだよ!ずっとやってみろよ!』
「はい『出来る』ですよね?ワザと変な噛み方しないでください」
『うるせぇ!!!』
ドガッ
「ぷげらっ」
ちょっと立ち上がりかけたのに再度地に落とされる。悲しい。
『お前は!一人で頑張ってたんだろ!雨雲で!土砂降りで!支えなんて無くて!』
うん?なんかそれっぽくなってきたぞ?
『途方に暮れて!投げ出したくて!でも、諦めなかったじゃないか!』
『お前は、虹だ!』
「……ッ」
『誰にも真似されない孤高の存在!手を伸ばしても届かない虹!でも、確かにそこにある!見向きもされなくても、頼まれ無くても!土砂降りの後には必ずどこかに存在している!それがお前だ!自分から主張なんてしない。言われなきゃ、裏方で気付かれない。でも確かに人と人とを繋いでく。そんな存在だお前は!そんなお前だから皆の力を貸してるんだ!そのお前が弱気でどうする!やりたいんだろ体育祭!俺達もやりたいんだよ!トップがしっかりしなくてどうするんだよっ!』
「…ッ」
ドッパァァン!!
気付けば、そんな音が響き渡るほど俺は両手で自分の頬をぶっ叩いた。
最初のコメントを投稿しよう!