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「俺…まだまだでした」
ヒリヒリと痛む頬を気にせず顔を上げる。今日は気合いれてばっかだ。
『よーし!ぶっちゃけ適当にベラベラ喋っただけだが結果オーライのようだな!』
「おいコラテメェ」
『ふはははは!だがしかしお前が再びやる気になったのなら問題ない!』
「…ちょっとした軽口からここまで叱っていただいて」
『良いって事よ』
『部長!塩化カルシウムトドメにまきましょう』
『そうだな。吸湿効果もあるしな。ちょうど倉庫だから持っていくぞ。…ではな。ネバーギブアップ!』
「あ、やっぱりシジミの人でしたか」
後輩と塩化カルシウムの袋を運び出していた先輩は、良い笑顔でサムズアップし、指示を出しながら立ち去ろうとする。
「…ありがとうございましたっ!!」
『フッ』
俺がその背中に最高の姿勢でお礼をするのを確認した後、先輩はその場を去って行った。
「…ふぅ」
「随分熱い人だったねぇ」
「…いつからいた。姉さん」
「うん?えっとねぇ。『ゴルぁ!!』辺りから」
「最初っからかーい。なーんで黙って見てた」
「いや、暑苦しかったから」
「ふ、不憫すぎる…」
「もう。そんな事はどうでも良いの!みんな待ってるんだよ!?」
姉さんのその声に押されるように校庭へ振り返る。事前準備は終わり、後はテント張りなどの本格的なセッティングだけとなった。
一人もずぶ濡れでないものはいないし、ワックスもメイクも台無し。でも、誰一人嫌な顔はしていなかった。一様に爽やかな笑みを浮かべ、俺を待っていてくれている。
そして、同じように晴れやかな笑みを浮かべて俺も前に出た。
「皆。俺の我が儘に付き合ってくれてありがとう。もうやれるだけの事はやり尽くした。グラウンドの水も抜けた。本当にお疲れ様」
そこで俺は、自分で空けた大穴を見やる。
「最後の後始末はあの大穴だ。では皆…」
その声に呼応するように、皆が大小様々なスコップやシャベルを掲げる。そんな愛すべき皆に、俺は叫んだ。
「最後の宴じゃぁぁ!」
『うぉぉぉ!』
同時に、一斉に穴に向かって突撃。我先にと穴を埋め始める。そんな光景を見ながら、俺はふと空を見上げた。
なぁ、運命なんて本当に存在するのかな。マイケルジョーダンじゃないけどさ、もし本当にあるってんなら…
パァー…雲の切れ間から差し込んだ光。
「運命よ、そこをどけ。俺が…俺達が、通る」
いつの間にか、雨は上がっていた。
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