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『可能性のその先』
佐々木飛鳥
六月五日 同時刻
校長室
「…これが、若さです」
「…そうですね」
「…若さ、かぁ」
だんだんと晴れゆく空の中、校長室の大きな窓から校庭で穴を埋めるヒヅの姿を私、飛鳥は…万感の思いで見つめていた。
本当はTw○tterであの動画を見たとき、今すぐにでも駆けつけんって勢いだったんだけど、校長とヒヅの担任である紫先生に呼び出しを受けて、皆の作業を上から見させてもらっていたのだ。
「所詮、一人の人間に出来る事など限られているのです」
「…はい」
外を見ながら校長が独りごち、紫先生が返す。私はそのやり取りを聞く係。
「大人に…いや、年を取れば取るほど意固地になり、頼り辛くなって行く」
「…そこで、若さですか」
「…そうだね。鞍掛先生。あなたもまだ若い。が、碓氷くんなど…彼らはもっと若い。一つの目標に、みんなで向かって行く事の素晴らしさを知っている」
「…可能性を、疑わない」
「飛鳥ちゃん?」
突然発言した私を不思議そうに見る紫先生。校長は私の言葉に頷き、
「彼らは自分に備わっている可能性を信じてやまない。そして可能性は、全ての人を。全ての垣根を超えて、人と人とを繋げていく」
「それが…」
カッ!一際強い光が一瞬、ヒヅを照らしたように見えて。
「碓氷火塚。彼のような存在なんですよ」
雨が上がり、空には綺麗な茜色に染まり始めた空と、大きな虹がかかっていた。
「あれから五時間くらい…風邪引かないかしら」
「ははは。彼らなら大丈夫でしょう。それよりも鞍掛先生。若さには若さにしかできない事があるように、私たちにも私達にしかできない事がありますよ」
「…そうですね。来賓にお声がけして来ます」
そう妖艶にニコリと微笑むと、紫先生は校長室を出て行った。
「…飛鳥くん」
「はい」
「本当に君の代の生徒会は面白いね…やる事が実に刺激深い」
本当に楽しそうに、少年に戻ったような笑みで、笑い合う生徒達を見下ろす校長。
「だって…私が選んだ自慢のメンバーですから」
「…そうですね。とても説得力のある言葉だ」
「クスッ…では、私も放送の用意をして来ますね。お祭り開催の宣旨ですよ」
「私は天皇ですか?ふふ、それも悪くない」
はやる気持ちを抑えながら校長室を出る。今すぐ会いにいきたいけれど少し我慢。
「頑張ってくれて…ありがとう。ヒヅ」
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