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「君は好きな人の望みなら叶えてあげたいと思わない?」
歌宮愛華(うたみや あいか)が僕に向けて呟いた。
瞬間、電車が来ることを告げるアナウンスがホームに響き渡る。
「そりゃ、できることならな。あと危ないから黄色い線の内側に入るなよ」
彼女が黄色い線の内側に入っているので注意を呼び掛けるが、ぴくりとも体を動かさない。
「おい、聞いてるのか?」
遠くの方で、電車が近付く音がする。
彼女の腕を掴もうとした。その瞬間、膝を曲げて蛙のように足をぴんっ、と伸ばすと、線路の上にバランスを崩しながらも着地した。
「おいっ。早く上ってこい!」
ホームに喧騒が飛び交う。
靴がわらわらと音を立てて集まってくる。
手を差し伸べる若い男。
僕の横には電車が迫って来ている。
あれ? なんで僕が線路に立っているんだろ。
手を差し伸べる男の足下には、あの小説が落ちていた。
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