――第一章――

2/15

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
夏に浮かぶ太陽の陽射しは、生徒を陰鬱にさせた。 そのせいか、教室のカーテンは閉めきられていた。 かといって、暑さを凌げるわけではない。 生徒たちはワイシャツの袖を肘の辺りまで捲ったり、団扇などで扇いだりして、暑さをすこしでも和らげようとしていた。 「今日は自習。中間テストに向けて勉強しなさい」 よく耳に響く声が教室に広がった。 担任の教師、森崎美麗の声だ。 黒く艶のある長い髪は腰の辺りまで伸び、額の中心から分け目を作って垂れている。 鼻がつんっと高く、唇はふっくらとして艶がある。ニキビなどできたら目立ってしまうほどに肌が白いが、もちろん、といってしまってもいいほどにニキビなどはなかった。 化粧を好まないのか、容姿に自信があるのかはわからないが、素顔を晒している。 森崎は教卓を前に、生徒たちに自習を命じた。 「いつ見ても綺麗だよな」 斎藤靖治が隣の席に座る佐伯祐二に声を掛けた。 「綺麗な人は性格悪く見えるけどな」 「馬鹿かおまえ、性格は顔に滲み出るんだよ。だから性格も綺麗ってことなんだよ」 「でも実際、イジメに気づいてるのに知らん顔してるじゃん」 「そりゃあ、そうだけどよ。やっぱり関わりたくないよ庄司たちには、誰だってさ」 高見庄司。田中和樹。田村幸一。このクラスの生徒を脅かす存在だ。 佐伯たちが高校を入学して半年が経つと、一人の生徒が高見のイジメによって自主退学をした。 イジメの標的を見つけては暴力を強いて退学させる。彼らなりの学校生活。ゲームみたいなものだった。 二学年になると、すでに二人も自主退学をしていた。半年に一人。佐伯たちは、そろそろ誰かが退学届けを出す、と践んでいた。 その『誰か』というのが明白になったのは、そう践んだ二ヶ月前のことだった。 佐伯たちのクラスの、川名結城が標的になったからだ。 誰もが川名の存在を有難いと思った。標的がいる限りは自分がイジメに遭うことはないからと考えているからだ。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加