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「なんであいつらと同じクラスになっちまったんだろう」
斎藤が溜め息を溢した。
こうして小声で喋ることなく会話ができるのは、佐伯たちが窓際の一番後ろの席で、高見たちは教卓の前の席だったからだ。
森崎がクラスの決めごととして、『遅刻が多い人は席替えがあっても前の席にする。』としたため、遅刻の常習犯の高見たちは万年一番前の席と決められていた。
一番前の席は嫌がると思っての行動だったに違いない。だが、高見たちにとっては万年仲の良いやつと隣になれることなるので、逆効果だった。
それでも、監視できることは好都合だったため、逆効果でも続けることにした。
現に、教師がいる前では大人しく、その間だけは標的の川名がすぐ後ろの席にいるにも関わらず、イジメは行われなかった。
「おまえ、好きな人できた?」
斎藤が話しを切り替えて、佐伯に問う。
斎藤は会話が途切れることが好ましくなかった。そのため、いくつもの引き出しから話しを持ち出しては会話を続けるため、突然話しが変わることが多かった。
佐伯はそのことは熟知していたため、今では気にならなくなっている。
二人は中学時代からの親友と呼べるほどの仲だった。
「できねえ」
佐伯は教科書を広げ、空ろな気持ちで字を眺めた。
「俺さ、おまえが好きなのは歌宮愛華だと思ってんだよねぇ」
斎藤は小声で言った。
「歌宮愛華? 僕が?」
斎藤に合わせて佐伯も小声になった。
二人の目線は佐伯の斜め右へと向けられた。
視線の先には、肩までのセミショートの女が本を両手で広げている。
教科書と思いきや、広げているのは小説だった。
一日一冊というかのように、毎回、違う小説を読んでいる。
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