――第一章――

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         * 世の中には『予言』という言葉が存在する。 でもそれは人間の発した言葉で、神が発した言葉ではない。 悉く予言は外れてきた。 期待することをやめた私は、毎日がつまらないものに変わっていった。 同じ毎日、同じ時が流れていく。 私は訴えた。 つまらないよ、つまらないよ、とリストカットなんかしたりして。 誰も気付かない。神でさえも、人間でさえも、誰も気付かない。 そんな退屈な時間を埋めてくれるのは、本だった。 字を読んでいると退屈な時間を忘れていられる。 たまに、どうしようもなくつまらない本がある。その度にリストカットを繰り返した。つまらない、つまらないよ、と。 退屈な日常を埋めてくれる本を探すのは、私の日常になっていた。 いつもの帰宅途中に寄る、個人で経営している古本屋で本を探す。 「おじさん。何か面白そうな本入った?」 最近はおじさんに本を選んでもらっている。 おじさんの選ぶ本は確実に面白いということに気付いたからだ。 「そうさねぇ。昨日、これを置いてくれって人が現れてねぇ。読んでみるかい?」 おじさんの手には真っ黒い本が握られていた。 「個人出版?」 「いや、それがねぇ。欲しいと言った子に無料であげてくれ、と言うんだよ。必死で頭を下げるもんだからつい了解してしまったよ」 「内容は?」 「まだねぇ。読んでいないんだよ」 「ふうん」 退屈しのぎに読んでみるか。 「これ、もらっていい?」 「ああ、いいとも。ただし、感想を訊いてくれと頼まれているんだ。読み終わったら感想を教えてくれ」 「わかった」 私は古本屋を出た。
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