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揚羽は幼い頃に売られた。
時は明治初期。
文明開化に翻弄される日の本でも、女児の売買は盛んに行われていた。
揚羽が売られたのは、迎春館というありふれた名前の楼閣。
売られた理由もこれまた平凡で、食い扶持を潰すためだった。
女は子供を生む。
貧しい村では、子供を養う力はとうに失せていた。
そして何より、迎春館の主人が揚羽の将来性に目をかけた。
これは化ける。
確信した主人は交渉して、揚羽を買った。
この時、揚羽5歳。
些か早い楼閣入りとなった。
この時、運命の悪戯が起きる。
商家の若旦那が、冷やかし半分に迎春館を訪れていた。
いずれ上客となろう男の来訪に、迎春館は浮き足立った。
しかしこの若旦那、あまり良い噂は聞かない。
放蕩三昧とはいかぬものの、どこか影のある面立ちをしていた。
そして付き合う仲間も、どこか探られては痛い部分を持った輩が居た。
この時の若旦那、14歳。
もうじき元服を迎える直前である。
つと、若旦那は揚羽を見た。
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