9人が本棚に入れています
本棚に追加
夏 ー 広島原爆ドーム。
親戚の家に遊びに行ったとき、案内された。
ゆり子は置いて行きたい、まだ、見せるのは早いと渋っている母親に、
『過去の惨劇を知るのはいいこと、一度は行っておいた方がいい。』
と、叔父さんに半ば無理やり連れて行かれた。
その時の私、ゆり子は4才。
お気に入りの白いレースピラピラのワンピ、白いつば広の帽子に、少しかかとの高い可愛いサンダル。
普段は子供らしい運動靴なので、履き慣れないサンダルで少しモタつきながらも、従兄に手を引かれて歩いていた。
『せっかく可愛い格好してるのに、そのパンダのポシェットが残念だなぁ~。』
その時小6の従兄は、オシャレのわからないガキはもう…と、まるで評論家気取りで意見してきた。
そんな従兄の発言なんか、4才の私には、なんのこっちゃ!
久しぶりに会えたからと、親戚の叔父さん、叔母さんたちが、ポシェットに次々と小銭を入れてくれていた。
小銭だって、4才の子供には大金なんだ!
嬉しくて、従兄の意地悪な言葉なんか、私にはどうでもよかった。
資料館の入り口の前で、叔父さんが私に振り向いて、
『ゆり子ちゃん、その大きなお目めでよ~く見ておくんだよ。』
と、ギョロギョロした大きな目でじっと見据えられ、その迫力に圧倒された。
私はただ、大きく頷くのが精一杯だった。
そんな私に叔父さんは、ヨシヨシと頭をグリグリ押さえてきて…優しく撫でたつもりだったらしい。
館内に入ると、やっぱりゆり子には早すぎたわ…と、来たことをしきりに後悔している母親の姿…その視線の先には ー
近所のお兄ちゃんの部屋にあったマンガ本でしか見たことのないガイコツの山、死体の山、何もかも燃えてしまった焼け野原。
戦死した人々の名簿。
突撃隊の最期の写真。
目を覆いたくなるような、写真の数々。
そして、子供心に一番ショッキングだった展示品は…核爆弾を投下された直後の人々の様子を、人形で再現されていたこと ー 。
私はただただ怖くて、恐ろしくて、早く出たいよ、帰りたいよ~と、心の中で叫んでいた。
もう、見たくない…!
最初のコメントを投稿しよう!