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「重いものは止めた方が良いと兄さんが言っていたので。丁度、俺の朝食を取りに行った時に、作って貰ったのですが――」
「タイミング良いな」
「それ、俺も思ってました」
そう言って乙月は苦笑する。
そうなのだ。“湯気を立てて居る”という事は、彼が帰って来てからそれほど時間が経って居ない、という事。それは、俺が口にした通り『タイミングが良すぎるほど良い」と乙月も思ったのだろう。
それに、よくよく見れば、乙月自身……未だ少し眠そうにしているから、案外彼も起きたばかりなのかもしれない。
――と、そんな事を考えて居た時。
ぐぅ、と俺の正直な腹は空腹の音を立てた。
「……、」
「お腹、空きましたか?」
「……らしい」
流石に恥ずかしくなって俯くが、余り乙月は気にしていないらしく、いつもの口調で問いかけて来る。それが逆に羞恥心を増大させる。
でもそこで、俺はふと思った。
(そういえば『空腹だ』って感じたのも……久しぶりだ)
それ程に、乙月という存在が、俺に安心感を抱かせてくれたのだろうか。
(――? あれ、でも何か……)
何かが違う、という感覚があって俺は首を傾げ、お椀を差し出し続ける律儀な後輩へと目線を向けた。
「って、乙月、お前……笑うな」
「え? ――あ、ああ。そういえば、俺、笑ってる感覚あります」
「実際、にやついてる」
「いつもは俺が子供扱いだから。何だか凄く新鮮で」
目線を上げた先で、思い出すように笑っていた後輩は、更に笑みを深めた。原因はどう考えても“俺の腹の音”で間違いは無いだろう。
思わず子供っぽく、ムッとして抗議しようかどうか迷う。
しかし、反面、その幸せそうな笑みがサッと隠されてしまうのも、何だか口惜しいのだ。
――乙月は最近、感情表現がしっかり出るようになって来たと、こうして居ると凄く実感する。
そんな俺を見つめ、乙月はふと‥何か思い出すようにポツリと言葉を口にした。
「俺は、先輩と対等になりたかった、‥のでしょうか」
「はぁ、そうなんだ」
気の抜けた返事を返せば、乙月はコクリと神妙な表情で一度頷く。
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