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「…ぁ…」
静かな室内に、鼻に掛かった甘えたような私の声がこぼれ、互いの舌を絡め合う水音に紛れる。
キスだけで意識が飛びそうなのは、温泉で焦らされから?
それとも、単なる酸欠?
もう、思考は正常に働かないみたい。
唇が離れ、私は無意識に大きく息を吸った。
「瑛里子、愛してる」
額を合わせ、鼻先が触れ合う距離で、そんなこと言うなんてズルい男。
「愛してるわ、篤志」
私から唇を重ねる。
篤志の口元がほんのりと笑みを浮かべていたのは、私の見間違いではないはず。
いつも受身ばかりで、その先に進むにはどうすればいいのかわからなくて、ぎこちないキスのまま唇を離す。
「ん?もう終わりか?」
鼻を触れ合わせたままだったから、低くて甘い声が熱い息ともに吐き出される。
「だって…」
思わずいつもの口癖が。
「また、だってかよ」
篤志の上体が離れて、汗ばんだ肌がすーっと空気を感じた。
「ま、そこがお前なんだけどな」
よくわからない理由で納得されて、再び熱い瞳に見下ろされる。
「お前は、このままでいい。このまま、俺に翻弄されてろ」
篤志の大きな手が、そっと頬を包み込む。
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