開幕

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 成長していくにあたり、多少の傷を負う事は避けられない。それは、必要な傷なのだ。金属が打たれて強くなるように、人もそうして傷を重ね、徐々に逞しくなっていく。決して、悪い事ではない。 「ロイ、どうだったの?」 「……何、姫様、そう心配なさらないで下さい。どうやら巣立ってしまったようです。素晴らしい事ですよ。あの小さな雛鳥が、羽を広げて空に飛び立ったのです」  悪い事ではないが――しかしそれは今でなくとも良いだろうと、そう、およそ過保護と呼べる程の思いで彼はその事実を隠すことにした。  ……いずれ、否応なしに傷付かなければならない時が来る。それまでは、出来る限り傷付けない事こそが私の使命だ。 「そう……、何だか嬉しいような、でも少しだけ、寂しいわね……」 「そう気を落とされずとも、来年になればまた、その巣立った雛が帰ってきますとも。その時にまた、ご一緒にここへ参りましょう」 「んっ……、ありがとう、ロイ」  そう言って、姫君はほんの少しの寂しさを滲ませつつも、いつものように可憐に微笑んだのだった――  と、その時である。  どおんっ、とでも形容するような音が林に響き渡った。方角は東――城の方である。  まるで花火でも打ち上げたような音だ、などと暢気な思考の後、すぐさまこれは聞こえるはずのものではないと気付く。  ……祭りなんぞ催される予定はなかったはずだ。町民が打ち上げたにしても、これ程の規模……、おおよそ許される範囲のものではない。  それもこの真昼間である。先に控えた夏祭り、その後にある収穫祭の予行でもあるまい。それは幾ら何でも、時期尚早に過ぎる。  そこまで考え、そして思い至った。  ――異常事態。 「姫様っ、すぐさま城に向かうので私の後を着いて来て下さい!」  一息に樹上から飛び降り、剣を腰に下げ、胸当てと手甲を拾い上げて、姫君が頷いたのを確認すると同時にロイは走り出した。  十数分程駆けた先に見えた城の様子はしかし、一見していつもとあまり変わっていないように思えた。先程の大きな音のせいか幾らか兵や大臣が行き交い言葉を交わしている声が聞こえてくるものの、目に見える実害はないようである。 「お二人ともご無事でしたか!」  少しばかり安堵の息を吐いていると、雑兵らしき格好の男が駆け寄ってきた。ロイと姫君を探していたのか、随分と息が上がっている。
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