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そんなこんなで今は紫さんと一緒に住む所、もとい住む所候補に向かっている。
此処で残りの人生をエンジョイしなきゃならなくなった訳で、寝所が必要になってくる。
幸いな事に紫さん曰く「頑張れば寝泊まりできるかもしれない場所がある」との事で、何故頑張るかはわからないが取り敢えずその場所に向かってみる事に(移動手段としてスキマを提案されたが軽くトラウマなので丁寧にお断りし、徒歩で移動中)。
「……それにしても、本当に草木が多い所ですね」
「あなたの世界は開発や開拓をしてしまったからよ。本来ならばあなたの世界だって、幻想郷のように緑が生い茂っている素晴らしい世界になってたのにね」
要は自業自得ってものですね。
でも良いなぁ。空気が澄んでて気持ちいい。
「……有日は緑が好きなのかしら?」
「あ、はい。緑っていうより花が大好きなんです」
と言って首に掛けていたチェーン付きの指輪を紫さんに見せる。
指輪には宝石等は一切付いてない、桔梗の花を象った彫刻がされている。
「……桔梗の花かしら?」
「はい。これは両親が、僕が成人した時に贈ろうとしていた指輪みたいです。人から聞いた話なんですけど」
桔梗の花言葉は「変わらぬ愛」
僕はどれだけ両親に愛されて居たか、この指輪を見る事で何時でもわかる。
……生きていたら楽させてあげたかった……
そうこうしている内に寝所候補の場所に来た訳、なのだが………
「……これ登るんですか?」
見事なまでに急な石階段。山にそって造られているのか、今までに見た事の無い程の傾斜だ。
「あなただけね」
「……え?」
どういう意味ですか、と聞こうと紫さんの方を向くと彼女は消えていた。紫さんが居た筈の場所には、あのスキマ。
スキマは移動手段としても使える、と言っていたのを今になって思い出す。
「……はぁ……」
溜息はすぐに霧散し、僕は石段に記念すべき一歩として右足を掛けたのだった。
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