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「……暑い……」
先程の畑―太陽の畑―にはヒマワリが咲きに咲いていた。そこから推測するに、恐らく幻想郷は今は夏の始めだろう。陽射しがかなり厳しい。
一段上がる毎にだるくなっていくのは、石段の多さと太陽のせいだろう。
トボトボと登り続ける僕。
減らない石段。
照り付ける太陽。
シチュエーションとしてはかなり悪い。
「うぅ……紫さんめ……」
反則まがいのスキマを使った紫さんに、静かに怒りを貯めていくのは仕方ない。
登り始めて約7分、やっと石段を登りきった僕は何とも言えない達成感を味わった。
「暑い……疲れた……」
登りきった先に見たのは鳥居と少し古ぼけた神社。境内は少し広めで、神社を取り囲むように木々が生い茂る。
神社自体も何とも形容しがたい雰囲気を醸し出しており、本当に此処が目的地であった場所なのだろうか、という疑問すら出て来る。
「やっと来たわね。遅いわよ」
そう言いながらスキマから出て来る紫さん。何か、絶対わざとじゃないかな。
「結構頑張った方ですよ……ここが住居候補の場所なんですか?」
溜息をつきながらそう言うと、癖のように懐から出した扇子を開き口元を隠しながら妖しく笑う紫さん。楽しそうな紫さんを見ると不安になるのはなんでだろう。
「そう。この神社――『博霊神社』が貴方の住居候補よ」
博霊神社……あっちの世界では聞いた事の無い神社の名前だな……やっぱり幻想郷特有なのだろうか。
「此処は最もあちらの世界……現世に近い場所であり、幻想郷を幻想郷として機能させている中枢でもあるのよ」
「……幻想郷を幻想郷として……?」
言葉遊びだろうか……全くわからない。
ハテナマークを沢山浮かべていると「とにかく重要な場所よ」と口元を隠しつつ苦笑する紫さん。深く考えるな、という事だろうか。
取り敢えず僕はゆっくりと神社に近付く。
やはり他とは違う雰囲気を醸し出しているのか、神社に近付くにつれ頬がピリピリとする。先程の紫さんの話に関係あるのかな……?
更に進み、賽銭、と書かれた箱……ようは賽銭箱の前に立つ。
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