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取り敢えず折角なので、お賽銭を入れてみる事にする。
幸運な事に上着のポケットに財布を入れたまま、ここに来たみたいだ。というかあっちの世界のお金は使えるのだろうか。
かなり使い古された黒い二つ折りの財布を取り出し、小銭入れを開く。中から五円玉を摘み取り投げるように賽銭箱に入れる。そして上から吊された縄を揺らす事で鈴を鳴らし、目を閉じ合掌する。
願うのは幻想郷での平穏な暮らし。五円にしては少し贅沢かな、と思いつつ目を開く。
「……?」
途端に神社の奥から聞こえてくる、地響きのような音。まさか、五円で贅沢な願い事をしたから天罰的な何かが……?
徐々に近付く地響きに怯んで少しずつ後ろに下がる。
賽銭箱から結構離れた瞬間、地響きが納まり神社全体が再び静かさを取り戻す。
紫さんは何故か楽しそうに、口元を隠しながらにやにやしている。
「お金を入れたのは、貴方?」
静けさを奪ったのは女性の声。真正面、賽銭箱の向かい側に何時の間にか誰かが立っていた。
頭には赤と白の大きなリボン、栗色の髪、栗色の瞳、黄色いネクタイのような物が付いた巫女服……らしい服。
何故、らしい、のかというと肩と腋が剥き出しなのだ。独特というか、恥ずかしくないのだろうか。
「何よ、ジロジロ見て。私の質問に答えなさい」
あんまりにも眺めるように見ていたからか、それに気付き怒られる。
「……はい……」
「そう。私は博麗霊夢。この博麗神社の巫女をしているわ。見たところ、貴方は外来人かしら?」
「あ、はい。僕は譲花有日と言います。今日から幻想郷に住む事になりました」
「……また貴女の仕業?」
ジト目で見る先には紫さん。依然として楽しそうに笑っている。
「連れて来たのは私。能力が発現しちゃったから仕方ないじゃない」
「そういう問題じゃないのよ、紫。無闇やたらに外来人を連れて来るな、って言ってんのよ」
険悪なムード。
居ちゃいけないような感じの僕。
……困った。
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