58人が本棚に入れています
本棚に追加
「……うわぁぁぁぁぁ!?」
殺されると感じ、急いで立ち上がると彼女に背を向けて走り出す。少しだけ後ろを振り向くと彼女は妖しく笑っていて、更に恐怖が高まる。
「い、一体何なんだ!?ここどこ何だよ!?もう、訳わからない……!」
一種のパニックに陥ったようにそう叫びながら走り続ける僕。何かよくわからない状況で殺されかけてるもんだから、仕方ないかもしれない。
そして次の瞬間、
「いづっ!?」
左足に強烈な痛みが走り、僕は転んだ。火傷みたいな熱い痛み、切り傷のような鋭い痛みが左足に走る。
両手で左足を抱え込み見ると、服は破け中のふくらはぎは火傷のような傷ができていた。
「次は、手加減はしないわ」
ザッという足音が聞こえ、そちらを見ると引き離した筈の彼女がもうすぐ傍に居た。彼女の周りには様々な色をした光った玉が浮いており、理屈は全く理解できないけどあの玉で左足が撃たれた、という事だけは理解できる。
「うあ……あ………」
あまりの痛みから言葉がしっかり出ない。
痛みでうずくまる僕に、彼女は右手を翳す。すると光の玉はその右手に纏わり付き始める。
「……人間、死ぬあなたへの最初にして最期の情けを掛けてあげる。言い残す事……そうね、遺言があるなら聞くわよ?」
余裕の現れか、僕に情けを掛ける彼女。情けを掛けるなら生かして欲しいものだ。なんて言える訳も無い。
「……僕も、花が、好きです……」
痛みを堪え、絞り出す言葉は、たった一言だけ。それだけで満足してしまった。
「……ふぅん……」
たった一言だけの遺言を聞いた彼女は、何か考えるように表情を変えた。
少しだけ生きてる時間が長くなったかもしれない。
「……あなた、ここにどうやって来たのかしら?」
思案顔から一変し、殺気に満ちた妖しい笑顔でそう聞いてくる彼女。それに対し、僕は素直にあの曲がり角の事を痛みを堪えながら話した。するとまた彼女は思案顔に戻る。
「……暗闇の空間、その中に幾つもの『目』ね……成る程」
重要な言葉だけを呟き、今度はまるで困ったように顔を歪ませる。表情だけ見ていると凄く面白いな、と死ぬまでのひと時を過ごす僕。何だか冷静になってきて、逆に怖い。
最初のコメントを投稿しよう!