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「あなた、本当に花が好きなのかしら?」
突然の言葉。いきなり過ぎたので言葉は出ず、何度も頷くだけになってしまった。
彼女は悩むように首を傾げている。と思っていたら次には何かを決めたように僕を見詰める。
「……年増妖怪、居るんでしょう?話したい事があるわ」
僕から視線を外し翳していた右手をゆっくりと下ろすと、周りを見ながらそう言う。聞き慣れない妖怪という単語に首を傾げながら、僕は彼女の行動を見続ける。
「あら、私を呼ぶなんて珍しいわね。何か用かしら?」
彼女の背後の空間に亀裂のような物が現れると、僕が遭遇した『目』と空間が現れた。中から紫色のドレスと長い金髪、白い帽子に日傘をさし、扇子で口元を隠しそう言いながら人が現れた。
何とも言えない、現実的ではない光景に僕は頭が痛くなる。
彼女――風見幽香と言っただろうか――は空間から現れた女性を睨む。
「あなたの仕業よね?こんな面倒事……」
「ふふ、正解。彼、面白そうだったから連れて来ちゃった♪」
「だからと言って、何でここに連れて来るのよ……」
「だって貴女、友達居ないでしょう?彼となら話が合いそうだったからよ。まぁ予想通り、殺そうとしてたけど」
「余計なお世話よ……」
会話を取り敢えず聞いてるが、全く理解できない。取り敢えず変な空間から出て来た人が僕を此処に連れて来たとしかわからない………
「有日」
突然、変な空間から出て来た人が僕の名前を呼んだ。
「な、何で………僕の名前を……?」
「そんな事より、私の名前は八雲紫。紫さんで良いわよ」
紫、と名乗った女性は僕に近付き、傷付いた僕の左足にそっと触れる。鋭い痛みが全身を走ると同時に、痛みは消えた。
「こちらに来た早々、災難だったわね。私の責任なんだけど。だからこれで許してね?」
苦笑しながら紫さんはそう僕に言った。左足から手を離すと、そこには傷は無く、今まで感じていた痛みという痛みが消えていた。
「ふふふ、不思議そうね。だけど種明かしは後にさせて貰うわ。それよりも―――」
心を読むような言葉と瞳。口元は依然として扇子で隠し、目元は妖しく笑っている。不思議、胡散臭いという言葉を体言しているみたいだった。
「――『幻想郷』へようこそ♪」
そして紡ぐ言葉は全く知らない言葉だった。
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