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足音なく現われた優一に、弥生の身体が硬く強張った。
「あ……ごめんなさい……」
「どうせ同じことを繰り返すんだろう? 意味のない謝罪は要らないよ」
謝罪の言葉を口にする弥生に目を向けることなく、優一は一つ一つ段ボールを確かめてゆく。
繊細とも神経質ともとれる、線の細い優一の横顔からは苛立ちが見てとれた。
機能的でスマートな生活を好む優一は、この家が気に入らないのだ。
「……重いだけで役に立たない腰だな」
弥生に侮蔑の視線を落とし、部屋を出ていく優一の手にはパソコンと書かれた箱が抱えられていた。
家の奥にしつらえられた納戸を自分の書斎に決めたらしい。
暫くの後、廊下の先からピシャン! と板戸の閉じる音がした。
(大家さんの意向、か)
弥生は自らを嘲るように口元を歪める。
彼女たちもまた、彼の親――正確には母親の意向でココに越してきたのだ。
――偶然だとは思うんですが……この雰囲気が良いんですかね? 子宝に恵まれるご夫婦が続いて……それで人気が出ましてねぇ~。
不動産屋の張り付けたような愛想笑いが、弥生の脳裏によみがえった。
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