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二
パンッ! と、小気味の良い音が庭に響く。
空は雲一つなく、澄んだ青が広がっていた。
主婦ならば、この洗濯日和に心浮き立たないわけがない。
シワを丁寧に伸ばしながら最後のタオルを干す弥生の目に、ぐんぐん伸びて行く一筋の白が映った。
「透(トオル)くんっ、飛行機雲だよ」
弥生が空を指差しながら、家を振り返る。
その縁側に――小学3年生ぐらいだろうか?――短髪の少年が姿を現した。
鮮やかなオレンジのノースリーブに迷彩柄の五分丈パンツという服装は、5月という時期には少し早すぎるだろう。その胸元には白い仔猫を大切そうに抱きかかえていた。
少年に甘えるように、その胸を優しく掻く右の前足にはソックスのような赤茶色のブチが入っている。
空を見上げる少年の片頬に、くっきりとエクボが浮かんだ。
「本当だ! “みー”も見られると良いのに……」
少年を見あげる仔猫の瞳の色は……声に傾ける耳の形は……何もわからない。猫の頭部があるハズの、その場所には空間が広がるばかりだ。
良く見れば少年の足元にも、そこから伸びているはずの影が、ない。
少年と仔猫――透と“みー”は、この家に住む<幽霊>なのだ。
弥生と彼らが初めて出会ったのは、今日と同じような晴天の朝。
「どこから来たの? 勝手に入っちゃダメよ?」
縁側に姿を現した少年と仔猫に、弥生は何気なく声をかけてしまったのだ。
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