こども の 棲む 家

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 あの時の、口も瞳も驚きで大きく広がっていた少年の表情を思いだすと、弥生は今も笑いを堪えられない。  逆に透にとってもまた、自分たちが<幽霊>であることに気付いた時の弥生の表情は、思い出すと笑いが止まらないものなのだが。  正体に気付いた弥生は驚きはしたものの、透たちを怖いとは思わなかった。  縁側から庭を眺める少年の瞳が、キラキラと輝いていたせいかも知れない。  お互いを慈しみ合う姿も、とても好ましく……。  以来、半月を過ぎようとしているが、人間とオバケの不思議と暖かな時間は続いていた。  透とみーは…あや、透は何故か家から一歩たりとも外に出ようとしない。一度、縁側からみーが飛び出そうとした時には、突然姿を消してしまった。  2人と一匹はいつも縁側に座っては頬を撫ぜる風を楽しみ、豆腐を売りにきたラッパの音に耳を傾け……時には近所から漂ってくる夕食の匂いに鼻をうごめかす。  弥生が子どもの頃――そして透がオバケになった頃――に流行ったドラマの主題歌を一緒に歌い、オヤジなギャグを言っては笑い転げる。  庭では咲きそろったばかりの釣鐘草が、笑い声に応えるように揺れていた。 「オレたちに気付いてくれたの、弥生サンが初めてだよ」  だから、スゴク嬉しい、と透が例の如くエクボを作って破顔する。  確かに、一度、宅急便の配達員が家の裏手に回ってきたことがあったが、一人笑う弥生を不審な目で見ただけだった。 (私の頭がおかしくなっちゃってるのかな……)  でも、それでも構わない。  透とみーは、他の人には感じることのできない、弥生だけの秘密の存在で良いのだ。
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