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明日のテストについて話が盛り上がって来たところで私はそっと教室を出た。
邪魔しちゃ悪いもんね。
私は正直、クラスにあまりなじめていない。
砂耶以外の同級生とは必要最低限の会話しかしたことなかった気がするな…。
影が薄い私は、成績も中の中だし、見た目も普通だからだれも気にとめない。
取り柄もないから、ただ『普通の良い子』を演じてるだけなの。
私は階段を登った。
そこは屋上へと繋がる階段。
階段を登りきり、ドアの前にたった私は鍵を開ける。
通常立入禁止である屋上の鍵は理事長先生から頂いたものだった。
理事長先生は私のお母さんのお兄さん、つまり、私の伯父さんだから特別に許可してもらったの。
でも、伯父さんとは苗字も違うから誰も気付いてはいないみたい。
地味って時にして役に立つものなのね…。
この秘密の鍵は私の秘密への鍵、誰にも知られることのない私だけの秘密の入口。
屋上は澄み渡っていた。
遠くには紅葉が見える。もうそんな季節なのか。
淋しい気持ちを唄に込める。
歌詞なんて考えたことはないけれど自然と言葉が出て来る。
この場所は私の秘密が行われる場所なんだ。
私にとってはこれが日常なの。
気持ちが溜まると屋上へやってきて、そっと唄を唄う。
そんな毎日。
いい子ちゃんのフリをして疲れた私はここでそれを流す。
ある時そんな私を見た理事長が私の唄をある芸能プロダクションに送ってしまった。
その唄により、私は謎の天才唄姫と称され、以来、私は唄い続けては曲を流し続けてる…
これが私の秘密の全て。
歌詞はよく思い出せないけど、私の心そのものだから、私だと知られてしまったら私は私でいられなくなるだろう。
絶対知られてはいけないこの秘密。
でも、あなたには、砂耶にはいつか言うから。
すぅ。
-澄み切った青
あなたがくれた穏やかな私
心染まる私の思い
届かない願い
私の希望
あなたがわたしに羽根をくれる
だからわたしははばたけるの
わたしは何色にでも変われるんだよ-
私は今日も秘密の唄姫として唄を紡ぐ。
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