第一章

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 手応えのない上辺だけの面接を一週間繰り返し、合否通知がチラホラと届いた。それは大方サイトを介してのお詫びメール。結果を言うと、どれも期待に沿わない内容で、連絡が来れば良い方で結局は全部ダメだった。  確かに、期待はしてなかったがここまで酷いと意気消沈を通り越し純粋な殺意が湧く。何件もの悲惨な結果のメールに目を通し油汗で滑る携帯を寝相でぐちゃぐちゃのタオルケットと敷布団の上に放り投げ、畳の縁を見つめる陽介の気持ちが双眸を通じて外気に蔓延する。 「おや、……元気を出しなさい」 「……また、また貴殿の期待に沿えないだってよ? ふざけんな……どいつもこいつも……人を馬鹿にしやがって!」  部屋に面する庭から手ぬぐいを頭に被り庭の手入れを始めようと鎌持った初枝が網戸越しでうな垂れる陽介の前に現れた。そしていつもの笑みのまま孫の異変に気が付き言葉を掛ける事にした。  それに孫が応えると、頬の笑みをより一層明るくすると網戸を開け腰を下ろし良く手入れをされた鎌をその横に置く。 「バカだねようちゃん」  背を向けたまま、入道雲が立ちこもる空を目を細め見上げる。 「そこがあんたに似合う職場じゃないだけだよ? 自分に似合う場所をちゃんと探したかい? 携帯なんぞ使わんで、その目と足で探しに行かんかい」 「でも……」 「この世が甘いもんじゃないと、ようちゃんならしっとる。同じ過ちをまた繰り返すのかい? 動かないで何が変わるんだい? ここで悩んで何もしないなら、向こうにいるのと変わらないよ。ようちゃん、変わりたくてここに来たんじゃろ?」 「……」  振り返る事なくそう言った初枝の丸い背中を見て陽介の濁った瞳に再度光が戻る。昔から初枝の言いつけだけは守ればどうにかなって来た。それを思い出し陽介はまた甘えだそうとした頬を全力で叩く。 「分ったよばあちゃん!」――俺は変わりたいんだ! 変わって今度は――。 「自分のやりたい事をするんじゃよ? じゃないとがんばれないからね」  そう言い腰を上げ炎天下の庭に下りた初枝が今度は振り向くと、そこにはもう陽介の姿はなく。玄関の戸が開く音がすると喪服青年が手を振り門を飛び出して行くのが見えた。 「がんばれようちゃん」
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