第一話「卯月舞」

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A 俺はつくづく思う。 読書ってのはいいもんだ。 静かな部屋で文庫本を読む。 右上の文字を順に下まで読み、一行左へずらしてまた下へと向かう。 そんなことを三十何回か繰り返すと、見開き二ページを読み終わり、また一枚、右手に読み終えた証が溜まる。 一冊読み終えた後、物語という「世界」がまた一つ俺の中に宿ることも魅力的だが、何よりこれだけのページ数を読み終えたという達成感が、俺には堪らない。 部室内には、俺を含む二人の文芸部員がひたすらページを捲る音だけが響く。 ああ、なんて心安らぐひと時なんだ。 一章を読み終え、一旦集中を切ると、微かに部室の外の音が洩れ聴こえているのも俺は嬉しい。 学校中を包むこの一つ一つの音には、今俺が読書に感じているのと同じくらいの充実があるはずなんだ。 みんな今を一生懸命生きてる。 それを想像すると、俺はワクワクが止まらなくなり、自然と顔がにやける。 いやぁ、読書って最高だな。 「アニー!アニーは居るかぁ!」 ほら、こうやって俺が喜びを噛み締めている時も、誰かが廊下を走る音がだんだん近くなる。 へっ、また来たか。 「アニー!たたた大変だ!須藤がまた暴れ出した!」 「今日は須藤か。すぐ行く!アンズ、ちょっと抜けるわ!」 アンズが本を読みながら片手を挙げるのを確認して、俺は本を閉じながら机に置き、思いっきり立ち上がる勢いそのままに、部室を飛び出し廊下を駆け出した。 「ちょ、アニー、場所分かってる!?教室じゃないよ!?」 「んなにぃ!?どこだ!?」 「体育館!新入生歓迎会やってたんだけど……」 「分かった!全部俺に任しとけ!」 「頼もしい!頼もし過ぎるぜアニー!」 右手人差し指を唇に当て、左手でアンズを指差し、「読書中だから静かに」とボディランゲージで伝えると、「え、それをあんたが言うの!?」と表情で理不尽を訴えられた。 さぁ行くぜ、体育館!
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