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A
俺はつくづく思う。
読書ってのはいいもんだ。
静かな部屋で文庫本を読む。
右上の文字を順に下まで読み、一行左へずらしてまた下へと向かう。
そんなことを三十何回か繰り返すと、見開き二ページを読み終わり、また一枚、右手に読み終えた証が溜まる。
一冊読み終えた後、物語という「世界」がまた一つ俺の中に宿ることも魅力的だが、何よりこれだけのページ数を読み終えたという達成感が、俺には堪らない。
部室内には、俺を含む二人の文芸部員がひたすらページを捲る音だけが響く。
ああ、なんて心安らぐひと時なんだ。
一章を読み終え、一旦集中を切ると、微かに部室の外の音が洩れ聴こえているのも俺は嬉しい。
学校中を包むこの一つ一つの音には、今俺が読書に感じているのと同じくらいの充実があるはずなんだ。
みんな今を一生懸命生きてる。
それを想像すると、俺はワクワクが止まらなくなり、自然と顔がにやける。
いやぁ、読書って最高だな。
「アニー!アニーは居るかぁ!」
ほら、こうやって俺が喜びを噛み締めている時も、誰かが廊下を走る音がだんだん近くなる。
へっ、また来たか。
「アニー!たたた大変だ!須藤がまた暴れ出した!」
「今日は須藤か。すぐ行く!アンズ、ちょっと抜けるわ!」
アンズが本を読みながら片手を挙げるのを確認して、俺は本を閉じながら机に置き、思いっきり立ち上がる勢いそのままに、部室を飛び出し廊下を駆け出した。
「ちょ、アニー、場所分かってる!?教室じゃないよ!?」
「んなにぃ!?どこだ!?」
「体育館!新入生歓迎会やってたんだけど……」
「分かった!全部俺に任しとけ!」
「頼もしい!頼もし過ぎるぜアニー!」
右手人差し指を唇に当て、左手でアンズを指差し、「読書中だから静かに」とボディランゲージで伝えると、「え、それをあんたが言うの!?」と表情で理不尽を訴えられた。
さぁ行くぜ、体育館!
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