第一話「卯月舞」

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  「ハッ、ハッ、ハッ」 廊下を全力で疾走していると、どうしても他の誰かにぶつかりそうになる。 「悪い、通るぜ!」 相手に怪我をさせるわけにゃいかない。 俺は前を歩く女子生徒に声をかけて、横を素早くすり抜ける。 「わ、びっくりした。あ、アニーじゃん。ガンバレー」 図体のでかい俺が廊下を走れば、人に迷惑をかけちまう時も多い。 だけど、俺は絶対に人にぶつかることはねぇし、この学校には快く許してくれる良い奴が多い。 「おー、アニー!今日も良い走りっぷりだな!」 俺は片手を挙げて応える。 畜生、ホント良い奴ばっかだ。 「お、番長のお通りだ。みんな、道を開けろー!」 すれ違う奴等はみんな、俺に声援をくれたり道を譲ってくれる。 「ありがとな、みんな!」 喜びの涙を流したいとこだが、今はそんな場合じゃない。 ダチが困ってんだ。膝がイカレるくらいにぶっ飛ばすぜ! 階段は一歩で飛び降り、踊り場で切り返してまた一歩。 着地の衝撃は相当なもんだが、俺の膝はまだイカレやしない。 今まで鍛え続けてきた鋼の肉体は、ダチを救うまでは壊れやしねぇんだ。 春の暖かい空気を身体全部で受け止め、俺は風になって体育館へと続く渡り廊下を駆けた。 体育館の正面扉まで辿り着いたはいいが、急に止まれずぶつかるようにして扉に手をつく。 そしてそのまま鉄の扉を左右に勢い良く開け放ち、舞台上で暴れている二年男子に向かって俺は思いっきり叫んだ。 「須藤おおおおおおお!!」 叫びながら、走る。 腕を振り、膝を上げ、全力フォームで、整然と椅子に腰掛ける一年生達の間を駆け抜ける。 舞台の上では、暴れる須藤を取り押さえようと、生徒会や部活動の二、三年生達が須藤を取り囲んでいた。 よし、まだ体育の塚もっちゃんは来てないらしい。
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