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「ハッ、ハッ、ハッ」
廊下を全力で疾走していると、どうしても他の誰かにぶつかりそうになる。
「悪い、通るぜ!」
相手に怪我をさせるわけにゃいかない。
俺は前を歩く女子生徒に声をかけて、横を素早くすり抜ける。
「わ、びっくりした。あ、アニーじゃん。ガンバレー」
図体のでかい俺が廊下を走れば、人に迷惑をかけちまう時も多い。
だけど、俺は絶対に人にぶつかることはねぇし、この学校には快く許してくれる良い奴が多い。
「おー、アニー!今日も良い走りっぷりだな!」
俺は片手を挙げて応える。
畜生、ホント良い奴ばっかだ。
「お、番長のお通りだ。みんな、道を開けろー!」
すれ違う奴等はみんな、俺に声援をくれたり道を譲ってくれる。
「ありがとな、みんな!」
喜びの涙を流したいとこだが、今はそんな場合じゃない。
ダチが困ってんだ。膝がイカレるくらいにぶっ飛ばすぜ!
階段は一歩で飛び降り、踊り場で切り返してまた一歩。
着地の衝撃は相当なもんだが、俺の膝はまだイカレやしない。
今まで鍛え続けてきた鋼の肉体は、ダチを救うまでは壊れやしねぇんだ。
春の暖かい空気を身体全部で受け止め、俺は風になって体育館へと続く渡り廊下を駆けた。
体育館の正面扉まで辿り着いたはいいが、急に止まれずぶつかるようにして扉に手をつく。
そしてそのまま鉄の扉を左右に勢い良く開け放ち、舞台上で暴れている二年男子に向かって俺は思いっきり叫んだ。
「須藤おおおおおおお!!」
叫びながら、走る。
腕を振り、膝を上げ、全力フォームで、整然と椅子に腰掛ける一年生達の間を駆け抜ける。
舞台の上では、暴れる須藤を取り押さえようと、生徒会や部活動の二、三年生達が須藤を取り囲んでいた。
よし、まだ体育の塚もっちゃんは来てないらしい。
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