第一話「卯月舞」

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  「どうする、アンズ?」 一応部長の意見も聞こうかなっと思って見てみれば、アンズは非難の目を俺に向けている。 むさっ苦しいのは嫌ってことか。 だが、わざわざ来てくれた若き芽をここで理不尽に摘み取ってしまうのももったいない。 かくなる上は、セレクションだ。 「よーし、じゃあこれからお前らに面白い自己紹介をしてもらう。面白くなかったら腕立て三百回なー」 部室に集まった五人の男子にそう告げて、俺は恐る恐るアンズの顔色を窺う。 アンズはいつの間にか視線を本に落としていて、そのまま目を離すことなく親指を上げた。 よっしゃ、アンズに誉められた! 「因みに、腕立て三百回できなかった奴は入部できねぇからなー。文芸部に入りたければ、何か面白いこと言うか、腕立て三百回やってみろ!」 改めて文芸部入部者セレクションのルールを説明すると、全員「えー!?」と不満の声を上げた。 「そ、そんなの無茶振り過ぎますよー!文芸部にギャグセンスも体力もいらないじゃないですか!?」 「文芸部を舐めんじゃねぇ!そうやって屁理屈こねて文句ばっか言ってる奴は、どこの部だってできやしねぇんだよ!」 「す、すんませんでしたっ!」 「他に、質問のある奴はいるか?」 「面白いかどうかはどうやって判断するんですか?」 「ここにいる部長が笑ったら合格だ。他には?」 「腕立て三百回はいくら何でも多すぎるのでせめて百回にしてもらえませんか?」 「俺は毎日三百回を二セットやっているから問題無い。他には?」 他に手を挙げる者はおらず、全員「やるしかねぇ」という表情で拳を握り締める。 「んじゃ、お前から順に前へ出て自己紹介な」 俺から見て一番左に立っている奴を指し、セレクションを開始する。 いつの間にか俺の隣に寄って来ていた梅田は口に手を当て、すでにクスクス笑ってやがった。
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