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――再西暦94年――
人類の新天地たる惑星アフレス。かの地に点在する地下神殿のひとつにおいて、『それ』は発見された。
当時、神殿の発掘を請け負っていた民間企業・PARC――。
民間軍事企業の様式を取るこの会社は、兵器開発及び生産にかけて、この世界有数の規模を誇っていた。経営活動の場はそれだけに留まらず、社会福祉や商業、ネットワーク管理、開拓事業、そしてこのような古代文明遺産の発掘調査等にも着手している。民間総合会社と言い換えても差し支えはない。
某日――企業の現社長クリス・ルブランシュは、発掘チームからの報告を受け、かの神殿に足を踏み入れていた。彼は一大企業を預かる者としてはあまりに若く、行動力と好奇心に溢れた一介の青年だった。故にその規格外の報告を耳にした際、沸き上がる衝動を抑えようともせず、現場に直行したのである。
そして、そこで目の当たりにした光景にクリスは驚嘆を漏らすこととなる。
「……し、信じられねぇ……。なんなんだこりゃあ……!」
難航を極める目前の情報の消化作業。それほどまでにクリスの視線の先に立ちそびえる『それ』は、世界の常識を遥かに超越した代物だった。
「俺は世界中回っていろんな遺産を見てきたが、今度のはケタ違いだ! 『カルチャーショック』ってのはこういうことか!!」
傍らに控えていた調査員が答える。
「現在までに発掘されてきた古代文明遺産のデータと照らし合わせてみましたが、このような物は類をみません」
聞いているのか否か、クリスはまるで新しい玩具(おもちゃ)に憧れる子供のように瞳を輝かせていた。
彼は唐突に疑問を口にした。
「こいつは俺達でも動かせるのか?」
「――は? それはどういう……?」
クリスの思考は、凡人の虚を衝くものだったようだ。彼は調査員でも理解できるよう論じた。
「見ての通り、こいつはかなりご丁寧に保存されている。他の遺産を凌駕する重大な秘密があるんだろう。起動できればこの惑星の謎に近づけるかもしれねぇ」
「……お言葉ですが、社長。正体が解らない以上、無闇に起動するのは危険かと存じます。起動に成功したとしても、一体何が起こるか……」
そこまで言ったところで、調査員は押し黙った。
クリスが意味深に目を細めたからだ。相手を傷つけることなく制する、水を含んだ綿のようなプレッシャーを宿した眼差しだった。
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