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教室のドアをあけたのは、神崎君だった。
「大島さん残ってたんだ。」
「うん。この教室、なんか落ち着くなぁと思って。」
神崎君はいかにも"クラスの人気者"という感じの男の子だ。どんな子にもわけへだてなく話しかける。容姿端麗、穏和勤勉。まさに"優等生"だ。
神崎を見ていると胸がドキドキする。こんな感覚初めてだ。私は神崎君に恋をしているのだろうか?
「やっぱり?僕もそう思って戻って来たんだ。」
優しい声が私の耳に届く。そうだ。私は神崎君に恋をしているのだろう。一目惚れだった。しかも初めての恋が。
「なんか嬉しいなぁ。入学式の日から気が合う日に出会えるなんて。家が遠いから同じ中学の人誰もいないんだ。」
私の目を見て神崎君は言う。
「改めて言うけど、僕、神崎勇太(かんざきゆうた)。これからよろしく。君は大島さんだよね?」
そう言って握手を求めた。
男の子と一言も話したことのなかった私は、ただうなずきながら神崎君の手を軽く握った。
初めて握った男の子の、神崎君の手は、私の心の中にあった高校生活への恐怖や不安を全て取り除いてしまうような安心感とあたたかさがあった。
「仲良くなりたいからメールアドレス教えてくれない?」
神崎君はそう言って、私の同意を得たあと、私の手から携帯を取り、赤外線でメールアドレスを交換した。
男の子とメールアドレスを交換するのも、もちろんこれが初めてだった。
「じゃあ、僕そろそろ帰るね。大島さんも暗くならないうちに帰った方がいいよ。また明日。」
そう言って神崎君はきれいなスクールバッグを持ってさっさと帰っていった。
私は神崎君がいなくなったあとも、ついさっき起きた夢のような出来事を頭の中で何度も何度も繰り返し、りんごのような真っ赤な顔で教室の真ん中に立ち尽くしていた。
10分ほど経っただろうか。
外を見るともうほとんど日は沈んでいた。
私があわてて携帯を見ると、神崎君からメールが来ていた。
「メールアドレス教えてくれてありがとう。これからよろしくね。登録しておいてね。」
私はこのメールに
「メールアドレスの登録完了したよ。これからよろしくね。」
と、友達に送るのとなんら変わらないメールをドキドキしながら送った。
そのあと急いで汚いかばんを持って、教室を出て行ったのだった。
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