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「月」
夜光虫のように輝く星々、中天高く昇る下弦の月、冴えた夜空から漏れる光が狩衣姿の少女を照らしていた。
「一真、もう大丈夫なの?」
振り返った少女の澄んだ瞳、風に舞う黒髪が随分懐かしく映る。
「あぁ、まあな。皆のおかげだ。俺一人じゃどうにもならなかった」
「でも、一真がいなかったら、私はここにはいない」
一真はそれを指摘された事に驚いた。今のいままで求めていた言葉であった筈なのにひどく意外な気がする。
「私が今もここにいることに、じゃなくて私と一真が今も一緒にいられるその事が私は嬉しい」
月はただ、微笑み、一真も返した。だけど、まだ戸惑いがある。自分にそんな力があったなど。
「俺は未熟だ。力なんてない」
「知ってる? 言葉にも霊力があるの。一緒にいたいって一真は言ったよね。その言葉が一真に力を与えたんだよ」
「そっか」
言葉は力になる。ならば、これから掛ける言葉もきっとそうなってくれる筈だ。
「なら約束したい。俺はどんな時も月を助け支える。お前を一人にはしない」
一真が掲げた手に月の真っ白な手が合わさる。
「うん、私もずっと一真と一緒にいる」
契は言霊と共に結ばれる。陰陽少女月と一真の物語がここから始まる。
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