序章・村雲覆う月の下で

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 村雲の合間から覘く月光に抱かれた夜の下  今日も私は境内で一人。そう思っていた。だけど、その日は違った。  私が遊んでいると誰かに後ろから声をかけられた。振り向くとそこには男の子。境内の外で何度か見かけた事があるけど、話した事のない子だった。    ――一緒に遊ぼう   そう言われたのが嬉しくて「境内の外に一人で出るな」っていいつけを忘れて、ついて行った。お父さんもお母さんも傍にはいない。とても心が軽くなって空に放された小鳥になったみたいな気分。  その子はなんでも知っていて、公園への近道とか、どこの木に鳩が巣を作っているかとか、噛むと甘い味のする花の事とかを教えてくれた。  外の世界がこんなに広がっていたなんて知らなかった。誰かと遊ぶのがこんなに楽しくて笑顔になれる事だったなんて知らなかった。知らない事がこんなに沢山あるなんて事を知らなかった。  私はとても嬉しくなって「人前で使うな」と厳しく言いつけられていた折り紙をその子に見せてあげた。  それを金色の折鶴にして見せた。その子は喜んだ。空に飛ばしてみせたらその子は驚いて、そしてとても喜んだ。あげるよって言ったら、もっと喜んだ。    私はその子に家に帰ったら折鶴を開けて見てと言った。  私はその折鶴の中にひとつのお願いを書いた。 ――あしたもまた、あそぼうね  
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