終章・契は言霊と共に

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「あいつの弟だ。彼女の血縁の者だ。他の親戚は皆死んだから唯一の家族だな」 「だけど……」 「そう、沙夜のやつはな。自分の決断で弟と縁を切った。自身の運命、陰陽寮が弟を陰陽師として取り込もうとしたのも大きな原因ではある。弟は沙夜の知り合いの貴族の養子になった」  しかし、今も春日家は陰陽師の家系として残っている。ということは、彼女の願いは絶たれたのだろうか。 「弟はその後、貴族として成長した。が、彼の息子、娘は陰陽寮へ入れられ名前も春日に改められたんだ」 「つまり、一応沙夜の願ったことだけは叶ったんだな」  一真はぽつりとつぶやいた。が、それを天は否定した。 「いや、あいつは自分の後の者が二度と陰陽師にはならないようにと願ったんだ。弟だけの事を考えてではない」  部屋は再び沈黙に包まれた。こうして聞かされると沙夜がいかに大きな存在だったか、そして自分が小さな存在なのかを思い知らされる。一真は目に見える者を守ることしか考えられない。「今」という時間にしか頭がいかない。だが、沙夜は自分の子孫の事まで考えていた。自分が死んだ後の子供が、そしてその子供の子供の運命をも抱えていた。 「だけど、あいつは月を殺そうとした」 「絶ってしまおうと思ったのかもなぁ。そうすれば少なくとも子孫が苦しむということはなくなる。ま、何百年もの間物の怪と一緒の世界に押し込められていたんだ。歪まない方がおかしい……お前たちはどうだ? こんな悲劇を前にしてもまだ、物の怪と戦いたいとか、何かを守る為に立ち上がることが出来るか?」
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