終章・契は言霊と共に

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 その質問は覚悟を問う物でも、こちらを試すわけでもない。純粋な疑問だった。天それにもう一方の方、月影はこれまで何十、何百という使い手と共に戦ってきた筈だ。その中で一体どれほどの悲劇を、死を、傷ついた人間を見てきただろう。それらの事を、沙夜の復活によって思い出させられたがゆえの質問なのかもしれない。そして、一真はそれらを理解した上で少しずつしかし澱みない声で答える。 「俺は月を守る為に戦いたい。強くなりたいと。そう思っていた。だけど、それは傲慢だったんだ。俺には天の助けが無ければ戦えなかった。月の助けが無ければ影女と戦う事は出来なかったし、沙夜を止める事も出来なかった。それに未来の助けが無かったら……」  ちらっと横を見ると霧乃は笑っていた。 「俺を倒せなかった?」 「そう。皆、誰しもが助けを必要としているんだ。何かが何かを守るなんて単純な公式は多分、ないのだと思う。沙夜だってそうだ。あいつは守る為に戦ってきた。だけど、それだけだ。自分自身も誰かの助けを必要としていたのに、それを求めることすら許されなかった」  そう、今も助けを求めているに違いない。そして自分自身ですらそのことに気づいていない。それがわかっていたからこそ、月も彼女と向き合ったのだろう。そして今後も月は戦い続ける。物の怪とだけではなく、自身の運命とも沙夜とも。 「月が助けを必要としているその時、俺はあいつの傍にいてやりたい。その為にはお前の助けが必要なんだ」 「そう、か」  天の声は深みを増していた。一真自身が答えを導き出したその事に感謝または敬意を込めて、返す。 「ますますお前の事が気に入りそうだ。今後も俺を使い続けるがいいさ」 「あぁ、よろしくな」
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