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一真が笑みを返したその時、ずぱーん! という音が鼓膜を引っ叩いた。両側に思いっきり開いた襖の合間には笑顔の日向が仁王立ちしていた。
「よ! 一真君、元気?」
「あ……あぁー、多分」
目を丸くしてどうにか答える。心臓が口から飛び出そうなくらいには元気だ。
「長ったらしい話はおしまいかな? いい加減飽きてきたよー」
「あのね……説明しておけって言ったのは日向じゃんか」
霧乃が呆れた顔で言った。一真が問いかけるように視線を向けると日向は肩を竦めた。彼女にこれを聞くのは酷だろうか。そんなことを思いつつも言葉がついて口を出る。
「なぁ、日向。俺は未だによくわからないんだ。俺とお前がその……霊気を取られた事について。なんで、俺とお前だったんだ?」
何をされたのかもいまいちわからなかった。博人は「儀式の為の生贄」と言っていた。そして、日向は自分の霊気を取った彼に対して「神を気取るつもりか」と叫んだ。
「春日家の巫には月の守り神の加護。そして、巫と契約した式神は日の守り神によって力を与えられる。物の怪を討つための、ね。神によって直接作られた私のような式の霊気は神を強く引き寄せる力があるの」
迦具土を見た時、日向に浮かんだあの顔が一真の頭に浮かぶ。
「あの沙夜が操っていた迦具土は」
「あれは神に成りそこなった者の末路といったところかな?」
神の成り損ない……その烙印を押したのは一体誰なのか。今まで一真は“神様”という存在を信じていたわけではないが、何となく煌びやかで人のようで人でないものをイメージしていた。だが、あれは……。
「それで、一真君。君が私と共に選ばれたのはね。君が私と真逆の存在だからだよ」
「真逆?」
一真が問うと日向はうなづいた。
「うん、そう。あなたとわたしは陰と陽みたいな関係なの」
反対。その言葉は彼の心を深く抉る真実だった。一真は自分の手を見下ろした。一体自分は何者なのだろう。
「俺は……悪い存在なのか?」
しかし、日向は優しく微笑んだ。
「あなたは自分が悪だと思っているの?」
一真は答えられなかった。ふと、何かが近づいてくる気配に振り向いた。
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