終章・契は言霊と共に

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 なんなんだ、このテンションは、と一真は呆れる。しかも日向だけではなく、ここにいるほぼ全員が一真と月の関係に注目しているらしかった。  学校といい、家庭といい、ここといい、なんだってそんなに注目されるのか一真には理解できない。彼氏彼女の関係なんて他に幾らでもいるだろうに。いや、勿論月とは付き合っているわけではないのだが。まあ、今のところは。 ――なんて、考えるのは狡いかな。  分かってはいる。月を助け守ろうと決めたのだから、それを半端な気持ちで投げだす事は出来ない。彼女は一生を自分自身の呪いと共に過ごすのだ。一真が諦めるのは簡単だ。やっぱり無理だったのだ、と投げ出すことは出来る。だが、月にはそれが出来ない。 「で、どこにいるんだ」 「外の庭だよ。思い出の地に、ね」  思い出の地。成程、言い得て妙というべきか。言った日向の表情はどこか温かい。指差した襖に淡く紅い燐光が走り、開く。冷えた風が部屋に入り込んだ。闇の向こうにぽつりと立っている少女の姿が見えた。 「さぁ」  と日向に肩を叩かれた。途端、四肢に力が灯った。ふらりと立ち上がり、庭を見下ろす。そこには親切にも下駄が置かれていた。  日向達によるお膳立てか。まぁ、悪くはない。十年前と同じような情景だ。ただ違うのは、周りに祝福してくれる仲間がいることか。襖がゆっくりと閉まる。
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