1人が本棚に入れています
本棚に追加
『そんな事よりも、君の方はどうなんですか?人の気配とか無いんですか?』
忘れ掛けていた同期に、急き立てられるように聞かれた事で殺気は削がれた。
けど釈然とはしないまま、渋々意識を周囲に向ける。
所々窓ガラスが割れているものの、ベージュのカーテンで全面が閉められて中の様子が窺(うかが)えない校舎。
屋根だけが顔を出して校舎と体育館を繋ぎ止めている渡り廊下。
頑丈そうな青銅製の扉に、これまた頑丈そうな錠前が掛けられた体育館。
――いずれも人気は全くない。
「無い。ここまで静かだと逆に怖いんだけど」
『……先輩、本当に奴等が出入りしているんでしょうか?』
『それを調べんのが、俺等の仕事だろ?』
『まぁそうですけど……』
「もう居なかったって事にして帰っちまおうぜ?」
『そうもいかねぇだろが。後になって「やっぱり居ました」とかいう事になったら、それこそ幹部に殺されるぞ』
「…………」
冗談で言ってみただけなのに、真面目に返されて言葉に詰まった。
が、どんより重くなった空気を解消するような、明るい声色によって沈黙は破られる。
『大丈夫ですよ先輩。その時は彼が責任全部負ってくれますよ。言い出しっぺなんですから!』
『おお!それもそうだな!よし帰るか――』
「さ、さあ!チャチャッと乗り込んでパパッと仕事終わらせてササッと帰ろうぜ!」
爽快に意気込んだ。
額に滲み出てきた脂汗を手の甲で拭いながら――。
.
最初のコメントを投稿しよう!