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『――現在の電力使用率は88%と安定した供給状況となっております。また本日、計画停電は予定されておりませんが、節電の継続に御協力下さい』
外の熱気を完全にシャットアウトした部屋に、女子アナの声が響く。
が、無情にも彼女の要求は、7枚の手札と睨み合うオレを始め、長方形のローテーブルを挟んだ向かい側で薄笑う奴や、周囲の面々にすら届いてない。
理由は簡単。
この一室に居る全員が、オレの判断に注目してるから。
「……っ、これでどうだッ!!」
意を決して、手札から数字が揃ってる2枚のカードを抜き取って、ローテーブルに叩き付ける。
ハートとスペードの"10"。
今持ってる中で1番強いカードだ。
置いた右手をそのままに息を凝らして、正面の奴の反応を窺(うかが)う。
だが目が合う前にそいつは俯いて、ハニーゴールドの長い前髪がその表情をわからなくした。
(――これは、もしかして……!)
淡かった期待が濃くなってくのを感じて、口角が吊り上がる。噤(つぐ)んでた口も自ずと開く。
歓喜の言葉が喉元にまで出掛かってた、その時――奴の肩が微かに揺れて「くくっ……」と今にも噴き出しそうに"何か"を堪えていた。
その"何か"は、そいつが顔を上げた事ですぐに判明した。
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