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彼女に出会ったのは、いや、その存在をはっきりと認識したのは、高校二年になったばかりのときだった。
季節は出会いと別れの春。
暖かな陽気に包まれ、桜が徐々に色彩を帯び始めた頃。
一年から二年に進級したということで、クラス替えが行われた。
こういうときクラス内に友達がいるかいないかで一喜一憂するのが、当たり前の高校生の反応だ。
しかし残念ながら親しい者の誰もいなかった僕は、クラスの皆が周りで騒いでいるのをどこか他人事のように感じながら、机にお行儀よく座って小説の文庫本を読み耽っていた。
ここで誤解してもらいたくないのは、僕はみんなに嫌われたり苛められたりしているわけではないし、性格もどうしようもないほど根暗というわけではない。
むしろ話しかけられたら、誰とでもわけ隔てなく普通に喋っていた。
さらには同じバスケ部に所属していて、ほぼ毎日顔を合わせている連中もいる。
無論そいつらと会話を交わすことも決して少なくはない。
それなのに、どうして僕は一人でポツンと本を読んでいるのか?
答えは簡単だ。
それは僕が自己主張もしなければ誰とも進んで親しくなろうとしない存在感皆無の男。
すなわち透明人間だからである。
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