第一章 彼女との出会い

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具体的にどういうことかというと、僕は人と深く関わることが怖いのだ。 そして話しかけられたら当たり障りのない笑顔を向けて、笑える冗談や他愛も無い世間話の一つもせず、ただ必要な用件だけをやり取りする。 当然こちらからの会話も必要最低限にする。 ただこれだけのことを事務的にこなしていれば、必然的に僕のような、いるのかいないのか分からない透明人間ができ上がってしまう。 そんな風に過ごしていて寂しくないのか? 誰かにそう問われたら、二の句を告げず僕は首を縦に振るだろう。 しかしそれでも、僕は透明人間で居続ける。 それはある意味“僕自身の強いこだわりであり、また背負わなければならない十字架だ”。 そんなわけで、他のクラスメイト達が煩く会話している中、僕は一人殻に閉じこもってお気に入りの小説を眺めていた。 ふと、斜め前方から声が掛かった。 「……それ、ツルゲーネフのはつ恋?  難しい本読んでるんだね」 いつもなら本から視線を離さず適当に受け答えするのだが、この時ばかりはびっくりして顔を上げた。 なぜならこれは古い外国の小説で、文字も多く、とても今時の高校生が読む代物ではない。 知っているだけでもかなり珍しい人種だ。
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