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「あなたの落としたものは、どれですか?」
こんこんと美しい水が湧き出る泉の中央に、突然浮かび出た美女が言った。
雪のように白い肌、木漏れ日に煌めくたっぷりとした金の髪は腰までの長さ。
にこりと微笑んだその顔は、いつか教会で見た聖母さまのレリーフのように神々しく輝く。
泉から湧き出たというのに、この美女からは雫ひとつたれていない。
濡れるどころか、木々の間を吹き抜ける風に、まるで古代の衣装のように襞のたくさんあるスカートの裾がひらひらと軽く揺れている。
もう2日近くほとんど飲まず食わずで森の中をさまよっていたマリカは、その様子をみて、ああ、もう自分は死ぬのだ、とぼんやり思った。
この美女は、自分を天国から迎えにきてくれた女神様なのだ。
そうに違いない。
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