209人が本棚に入れています
本棚に追加
恐る恐る歩み寄って、ダンボールの蓋を開ければ小さな子供が自分を守るように丸まっていた。
まだ寒さの残る春先で、薄っぺらいタオルケット一枚羽織ったその姿。
寒さに震える子供に手を伸ばして、髪に触れた途端手の甲にピリっとした痛みが走った。
咄嗟に手を引くと、手の甲に小さな引っかき傷。
ダンボールに視線を落とすと、お月様みたいな丸い大きな瞳が俺を見ていた。
街頭の光で淡く見える黒髪に付いた白い耳。
警戒しているのか、威嚇しているのか…ピンと立った尻尾が印象的。
「……大丈夫だよ?」
フー…って唸って、小さなダンボールの隅で全身で近寄るなって俺を見る。
だけど、一瞬触れた子供の頭は凄く冷たかったから、俺はダンボールの中から子供をそっと抱き上げた。
案の定子供は暴れて俺の腕から逃げようとするけど、ひんやりと冷えた身体を離す訳にはいかないよね。
「…大丈夫、大丈夫だから」
腕に、顔に引っかき傷が付くのが分かる…正直痛い。
それでも優しく背中を摩ってあげたら、次第に大人しくなって俺に身体を預けてくれた。
「良い子だね…寒かったでしょ?」
「……」
自分のコートの中にそっと子供を抱きこんで立ち上がる。
こんな所で話してたって、温まるわけじゃないもんね。
「ねぇ…俺のおうちに来ませんか?」
俺の肩に顔を埋めて、微動だにしない子供の頭に自分の頭をコツリと当てて声をかける。
「………」
やっぱり何も答えてくれなかったけど、小さなてのひらが俺の服をキュっと握り締めてくれたから…
俺は、残りの帰路を走って帰った…。
_
最初のコメントを投稿しよう!