序章

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坂本星那(サカモトセナ)は、バスが嫌いだった。 毎年、郊外学習の時期がやってくると憂鬱になる。 鷹月南中学校3年生は最後の郊外学習なのに行動班はくじ引きで決められてしまったし、今更自分たちの「まちをめぐる」なんて何の意味があるのだろうか。 ただ星那にとって唯一嬉しかったのは、片想いの相手の千葉竜之介(チバリュウノスケ)と同じ班になれたことだった。 バスに揺られていると数十分間が何時間にも感じられる。 星那は吐き気を催すまいと酔い止めを早めに仕込み、発車とともに目を瞑った。 …隣で古川俊(コガワシュン)が騒いでいる。 眠れない。 男女別に出席番号順で並べられているせいで、クラスで一番のお調子者と隣同士だ。 古川のグループの他の連中は席が少し離れているため、頭の上を男子達の騒ぎ声が飛び交う。 せめて、窓際の席だったら良かったらのに。 古川に向かって飛んでくるスナック菓子が星那の顔に当たった。 舌打ちしてもこいつらには聞こえないだろうな。 予定ではバスは大阪市内に向かうはずだった。
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