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はぁ、はぁ、はぁ…
茂みを掻き分けジグザグに進んで、フェンスにぶち当たった所で竜之介は足をようやく止めて息をついた。
星那はなんとか竜之介に追いついて行き、同じようにフェンスに倒れ込んだ。
ふと気がついて見るとプリーツスカートの裾に、恐らく隼人のものと思われる血液がべっとりと付着していた。
さっきの光景が映像として頭にはっきりと浮かび上がる。
星那の目には涙が溢れた。
「おい、若杉が居ないぞ」
「……えっ」
気づくと竜之介と星那の二人だけになっていた。
「ナツミ…途中でついて来れなくなったのかもっ…」
運動部に所属している星那はともかく、普段「日に焼けたくないから」と言って外に出るのも嫌がる菜摘が竜之介の急ぎ足について来れるとは思えない。
「どっかで迷って泣いてんじゃねぇか、あいつ…探しに行くぞ」
「千葉くん…怖い、行きたくない。ここに居よう?」
星那はとっさに言った。
開始10分もしないうちに二人も仲間が目の前で殺され、武器もなくなったのだ。
心は完全に恐怖に支配されていた。
ただ…
竜之介に嫌な女だと思われるのはごめんだが、呑気に菜摘に妬いている自分がいるのも確かだ。
こんな非常時に…と思ってその気持ちは押し殺そうと思った。でも、こんな最中で竜之介に守られる菜摘にますます嫉妬心は燃えてしまう。
可愛らしくて自分一人じゃ何もできない菜摘が、こんなにも憎く思えるなんて…
(やっぱり私は嫌な女だ)
「お前の言う通りだな」
「えっ」
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