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「申し訳ありません。ですが………先程、久光様がお戻りになられたのですが………」
侍女の口から出た名に少女は顔に僅かながら喜色を示す。
「兄様が戻られたのですね」
今すぐにでも走りだしたいのを堪え、少女は笑みをもらす。
少女の兄は一族のことを話す為、この地を離れていた。
どうやら漸く帰還したらしい。
「兄様は?」
「ですが!!………久光様は傷を負って戻られました……」
「----何を馬鹿なことを。兄様が怪我など………」
「ですが、傷の治りが悪く………」
侍女の歯切れの悪い言葉に、少女はたちあがり玄関へと急ぐ。
平時であれば、行儀が悪いと叱られるような勢いで-----。
玄関の辺りら人が様々に入り乱れていた。
数人の侍女たちが、薬やら包帯を持って走っていた。
その人混みを掻き分け、少女は兄の元へといく。
「----兄様!!」
傷つき、従者に支えられるように座っていた兄の姿に少女は息を呑む。
「………何が……あったと」
傷の痛みに耐えるようにしている兄には事情の説明を求めるのは無理と判断し、少女は従者に説明を求める。
「誰が……兄様を……」
一族の当主となるべく教育された兄は剣術においても人にひけはとらない。
なのに、その負った傷はよくこの地まで戻ってこれたと思うほどである。
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