第1話 約束

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嬉しいけど、慣れないのにこんなにキスをされると複雑な気分になる。 百合っていつもこんな感じだっけ? 「買ってきたわ、次行くわよ」 俺が考え事をしているうちに、もう服を買ってきたのか。 しかも次って、おい。まだ買い物するのか? もう、両腕が悲鳴をあげてるんだけど。 「ほらっ、もたもたするな!」 「ちょっと待て。今、さりげなく買った服を腕に吊るしただろ!?おいっ!」 「カート使えばいいじゃない」 ──あっ。 「何、一生懸命に持ってるのよ。恥ずかしくないの?」 「……。」 キスされた時よりも恥ずかしかった。 丁度、使われてない籠付きのカートを発見した俺は、全ての荷物をカートに突っ込む。 デパートに来てるのにカートの存在をすっかり忘れてた。 よほど、電車を降りた時の一撃が痛かったんだな。 こんな、便利な物の存在を俺が忘れる訳がない。 痛みによる一種の記憶障害だろう。そう信じる。 「ボサッとするなっ!」 デパートの中を楽しそうに走る百合。 いつまで買い物をするか分からないけど、なんだかんだで楽しいからいいかな。 金おろせたから晩御飯も食べて帰れるし。 せっかくここまで来たんだ、この際楽しめるだけ楽しむか。 「はいはいっ」 百合の後を追うように、カートを滑らせる。 ──シャーッ。 カートって楽だね。 もうお前の存在は忘れないぞ。俺はカートに誓った。
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