13人が本棚に入れています
本棚に追加
嬉しいけど、慣れないのにこんなにキスをされると複雑な気分になる。
百合っていつもこんな感じだっけ?
「買ってきたわ、次行くわよ」
俺が考え事をしているうちに、もう服を買ってきたのか。
しかも次って、おい。まだ買い物するのか?
もう、両腕が悲鳴をあげてるんだけど。
「ほらっ、もたもたするな!」
「ちょっと待て。今、さりげなく買った服を腕に吊るしただろ!?おいっ!」
「カート使えばいいじゃない」
──あっ。
「何、一生懸命に持ってるのよ。恥ずかしくないの?」
「……。」
キスされた時よりも恥ずかしかった。
丁度、使われてない籠付きのカートを発見した俺は、全ての荷物をカートに突っ込む。
デパートに来てるのにカートの存在をすっかり忘れてた。
よほど、電車を降りた時の一撃が痛かったんだな。
こんな、便利な物の存在を俺が忘れる訳がない。
痛みによる一種の記憶障害だろう。そう信じる。
「ボサッとするなっ!」
デパートの中を楽しそうに走る百合。
いつまで買い物をするか分からないけど、なんだかんだで楽しいからいいかな。
金おろせたから晩御飯も食べて帰れるし。
せっかくここまで来たんだ、この際楽しめるだけ楽しむか。
「はいはいっ」
百合の後を追うように、カートを滑らせる。
──シャーッ。
カートって楽だね。
もうお前の存在は忘れないぞ。俺はカートに誓った。
最初のコメントを投稿しよう!