第1話 約束

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「──っ!」 ふと、百合が右手を握ってきた。何だろう。キスした後に手を繋ぐと凄く緊張する。 「さて、行くわよ?」 あれ? 右手に力がどんどん入ってきてる気がするんだけど? 気のせいか。 「何処に行くんぎゃあっ、手がぁ、手がぁっ!?」 「買い物。何度も言わせないで」 気のせいではなかった。 手がヤバい、いやマジで手がとれる!? あまりの激痛で頭が真っ白になる。女子高生の握力ってこんなに出るの? 「電車に遅れたら、頭潰すから」 どうしよう、冗談に聞こえない。 激痛で麻痺してる右手を引っ張られ、再び走り出した。いや、走り出された。 さっきの幸せは何処にいったんだろう。確かに手は繋いでるけど、感覚無いよ。 まぁ、いっか。 いつもの百合だ。 俺は電車に動くなと、心の中で連呼しながら百合と一緒に走って行った──。 まだお互いに“好き”なんて言ってない。 これから先、百合が言うかも分かんないし、俺も言うかも分からない。 けどな。 今が楽しければそれで良いと思う。 付き合ってたって楽しくなかったら意味がない。 逆に言えば、付き合ってなくったって楽しければそれで良い、俺はそう思う。 百合とは絡む度に殴られたり、口喧嘩したりと、周りから見たら決して楽しんでるとは思わないだろう。 けど、俺は楽しい。因みにMではないぞ、これは断言する。 百合が楽しいかは訊いてみないと分からないけどな。 だから──。 “好き”って言わなくてもいいかな。 俺のお前に対する気持ちは“好き”でおさまる程、軽いものじゃない。 お前に対する気持ちが言葉で伝えられるまで……。 俺は何も言わない。 そう決めた。
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