出逢い

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  「何で返しちゃうんですかー」  藤原のその言葉で、華恋はハッとする。そんな華恋に気づかず藤原は続けた。 「それさえあれば、保科さんを道場に連れて行けるじゃないですかー」 「そんな手段は使わずに、素直に頼めば良い事だろう!! すまない、華恋さん。普段はこんな我が儘を言うヤツではないんだが……」  そんな藤原に軽く一喝した山口は、続けて華恋に頭を下げる。そんな風に低姿勢で謝られてしまうと、何だか自分が悪い事をしている気分になるものだ。 「いえ、大丈夫です。お気になさらないで下さい」 『お気になさらず、早く帰らせて頂きたい』と、華恋が心の中で思ったのは内緒の事。  だが、尚も頭を下げ続ける山口を見て、『今日ならば良いか』と腹を括り、山口の腕に触れた。 「わかりました。本日ならば何も用事は御座いませんので参ります。ですが、本日だけですよ」  淡白に念を押す華恋の言葉を聞いて、驚きの顔をする山口と、『待ってました!!』と言わんばかりの更なる笑顔を見せる藤原。  そして、余程嬉しかったのであろう藤原は、華恋に抱きついた。多分藤原は、華恋の最後の言葉を聞かなかった事にしているに違いない。 「きゃっ!!」  「!!」  驚きを隠せない華恋、と山口。藤原の行動には山口も大慌て。必死に藤原の胸板を押し腕の中から逃れようとする華恋と、必死に藤原の抱え込みを解こうとする山口。  だが、二人で必死になっているのにもかかわらず、なかなか藤原の腕が解けない。山口は『これは最後の手段しかない』と、藤原の腕を解くのをやめた。 「……房良、離してやれ。道場へ行くんだろう。遅れたら、また内藤さんに角が生えるぞ」  冷静になった山口の言葉を聞いて、藤原の抵抗がピタリと止まった。そして腕の拘束を解くと、降参と言わんばかりに両手を上げた。 「あー。それは本気で嫌ですねー。あの人、怒らせると鬼のように怖いんだもん。……ほら、さっさと行きましょう山口さん」  藤原はそう言うと、何事も無かったかのようにスタスタと歩き出した。素直に歩き出した藤原を見て、山口は小さな溜め息を吐いた。
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