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「姫ー」
相馬が一人で現実世界へ帰ってから、約一週間。
この世界で生きることを選んだゆりあは、姫としての立場で暮らしていた。
鏡の間から鏡が消え、ゆりあの持っていた本もいつの間にか無くなっていた。
「なんだ?」
侍女のユーリとは、仕事の合間をぬってお茶をするくらい仲が良い。
「お願いがあるんです。恐れ多いのですが、姫のことを、名前で呼ばせてもらってもいいでしょうか?」
姫。確かにこの名で呼ばれることには慣れないし、慣れたくもない。
「全然いいよ」
ぱあっと花が開いたようにユーリは笑った。
「わぁ、嬉しい。ありがとうございます、ゆりあ姫」
思わず脱力した。
鈍いのか、ユーリは。
普通名前で呼ぶってそういうことじゃなくて、と心の中で突っ込んだ。
「……姫って呼ばれるの嫌いなんだけど」
「でも、それでは……」
「ゆりあ。ゆりあでいいよ。ユーリにはそう呼んでほしいし」
姫って呼ばれると、距離を感じてしまうから。
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