30人が本棚に入れています
本棚に追加
「見ろよ、三年生の女子体育。ハードルかぁ……」
「まじ!?なん組?」
「1組。ほら、ゆりあ先輩居たぞ」
調理実習中の下級生が窓から顔を出し、グラウンドを見ている。家庭科室からグラウンドは目の前でよく見える。
「やっぱきれーだなー」
「喋らなきゃな」
「あー、確かに。黙ってれば美少女なんだけどなぁ…………」
教室の窓は全開だ。本人達は気付いてないかもしれないが、声は大きく、余裕で聞き取れる。
聞く気がなくても。
「もてもてだねー、ゆりあ」
親友の相崎菜々が、にししと笑った。
「うれしかねーよ。顔と中身が一致しないことくらい自分が一番分かってるよ」
溜め息を吐き、ゆりあは苦笑する。
女優の母と、俳優の父から受け継いだ容姿はゆりあのコンプレックスだ。
腰までの黒髪ロングストレート。くりっとした瞳。色白の肌。
「口悪いしねー」
「うるせーよ。ほら、菜々の番だろ、早くいけよ」
菜々はくすくすと笑いながら離れていく。
黙ってれば、可愛いのにね。
こんな子だと思わなかった。
どこにいっても、言われる言葉。言われなれた言葉。
「……あー、眠い」
三年生に進級し、早いもので4月が終わろうとしている。
最初のコメントを投稿しよう!