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その日、結希は運動部から受けた助っ人の任務を果たし、幼なじみの菜月と夕暮れる中を帰宅していた。
「今日も大活躍だったね!」
まさに自分の事の様に艶のある長い黒髪をツインにリボンで結った菜月が、殺意さえ発する投手から放たれた白球を意図も簡単にバックスクリーンに叩き込んだ結希を褒めたたえている。
「偶然だよ、たまたま運動神経が他の人より良いだけ」
「またまたご謙遜だね。でも、そこが結希の良いところなんだよね」
背丈が同じくらいの中学三年生の男女が、学園指定の制服に身を包み鬼塚市内の大通りを他の歩行者達に混ざり仲良く歩く。
神寺結希。身長も体重も学力も平均値を少し上回る程度で、容姿もスポーツマンらしく黒髪の短髪で爽やかな少年、まさに普遍的な十五歳である。家族構成に至っても父、母、二才下の妹が一人いるごく一般的な家庭であった。
ただ、同年の友人達、ひいては全国の十五歳よりも圧倒的に運動神経がずば抜けて良かった事だけが、結希の秀でた特徴であった。
「明日はサッカー部の助っ人だよね? しっかりルール覚えた?」
「フォワードが怪我したって泣きつかれちゃってさ、まぁぼちぼちってとこかな」
「結希なら大丈夫だよ」
だから今日は野球部の助っ人をし、明日はサッカー部のエースストライカー代行である。
ちなみに明々後日は陸上部で、週明けからは剣道、柔道、空手と屋内外の部活動をはしごしなければならい。
「僕、由緒正しい帰宅部なのにな~」
「ふふ、取り柄があるって良い事じゃん」
結希としては運動神経が良く、人から必要とされる事は喜ばしいことなのではあるが、周りの人々が自分の将来を有望視するのが恥ずかしくて堪らなかった。
「百年に一人の逸材。神の子なんだから仕方ないよ」
「止めてくれよその呼び方は……」
が、彼の日常は、平穏に帰宅部らしく抑揚のない安寧の生活とは行かず、青春らしい華やかな日々であった。
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