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「結希の未来はこれからもっと楽しくなるよ!」
菜月のその言葉は絶対的な予言と言っても過言ではない。それを証明するのが、これまで爽やかな笑みを浮かべ菜月の話を聞く結希が築いてきた史跡であるのだ。
「そうだなぁ~、ずっとこのまま楽しい日々を送れる事は僕も望むよ」
「そ、そこに、わ、私もずっといれるかな……?」
「え?」
急に夕焼けに染まる頬をそれ以上に紅く染める菜月が、足を止め不安げな表情をする。
「な、なんでもないよ~だ! ほら、帰ろ!?」
「あ、ちょっと待てよ!」「待たないよ~だ――」
それに結希が素っ頓狂な顔をして試合中とは裏腹に間抜けな声を出したので、そんな鈍感な結希に淡い気持ちを悟られたくなくなった菜月は茜色に染まる歩道を恥ずかしそうにして駆け出してしまった。
「まったくも~、たまにへんなこと言うんだから菜月は」
その遠ざかる後ろ姿を見つめ、結希はこれからもこんな日々が続く事を祈り歩行者の影に消えた菜月を追うべく歩みを再開した。
「ん?」
だが、歩道を収める視界の先に、微量の哀愁を孕んだ茜色の世界を漂う霞んだ靄を発見し、また立ち止まってしまった。
その靄は段々と色を表し歩道のセンターラインの真上で、くすんだ藤色掛かった靄へと変わり、それに気が付かないで平気で擦り抜ける歩行者達を前に動きを止めた。
「車の排気ガスか? それにしてはハッキリ見えるし、みんな気にしないで通り抜けてる」
それは車道からゆらゆらと煙りの様に漂ってきたと思えば色素を確定し動きを止め、結希の前方で何かを待伏せていると言わんばかりに不動となり空気中で静止しているのだ。
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