こども

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軽く雑談のようなものを交わした後、治療に入る。その頃には私の緊張は完全に解け、先生の言葉を受け入れる下地が出来上がっていた。 先生に言われるまま、催眠治療を受ける。 私の意識は緩やかに落ちていき、先生の声だけが遠くに聞こえた。しかしそれも霧散し、私は柔らかな闇に身体を委ねていった。 しかし次の瞬間、私の身体はその闇から浮上する。いや、一瞬の事のように思えたが、時計の針は、確実に時を刻んでいた。 目の前では先生が、怖い程に真剣な表情で私を窺いながら、何かを考えている。 しかし私の視線に気づくとすぐに柔和な表情に戻り、治療を続ける事を勧めてきた。実際に今、身体と心の軽さを感じていた私は断る理由もなく、次の予約も入れたのだった。 数回の治療の後、その効果は顕著に現れた。私が夜、魘される事は、減っていったのだ。 治療の合間を縫い、私と先生の間には交遊関係が生じ、互いの家に行き来をするようになる。 そんな事を数回繰り返し、まるで親友のように先生を迎え入れたある日の事だった。 先生の瞳に、冷たい光が浮かんだ。 その後の事は覚えていない。 記憶に残っているのは、食事を用意し、それらを口にしながらたわいもない話を交わした事。そして、先生が持って来てくれていたワインに舌鼓を打っていた事だけだ。
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